
「市場」と聞くと、株やFXなどの金融市場を思い浮かべる人が多いかもしれません。しかし、私のように園芸業界に携わる人間にとって、市場(いちば)は植物を仕入れるための重要な場所です。
ここでは全国各地の生産者が育てた植物が流通経路を経て集まり、花屋やホームセンターのバイヤー、さらには個人事業主などが仕入れを行います。
市場での仕入れ方法にはいくつかの種類がありますが、その中でも特に魅力的なのが「競り(せり)」です。
競りの日には、通常の定価販売とは異なり、買い手が価格を決める形で取引が行われます。特に青果市場や花き市場では、鮮度が重要視されるため、取引が成立しやすい「下げ競り」が一般的です。
これは、売り手が最初に設定した価格からスタートし、買い手が現れない場合には価格が徐々に下がっていく仕組みです。
このシステムの面白いところは、シンプルでありながら心理戦が繰り広げられる点です。
買い手としては、できるだけ安く仕入れたいものの、あまり待ちすぎると他の人に取られてしまう可能性があります。そのため、市場では常に緊張感が漂い、購買意欲が刺激されます。
経験を積んだ買い手は、どのタイミングで手を挙げるべきかを見極めるスキルを持っていますが、初心者は焦って相場よりも高値で買ってしまうこともあります。逆に、欲張って買い時を逃してしまい、狙っていた商品を手に入れられないということも珍しくありません。
また、競りでは瞬時に取引が成立していくため、買い手は素早く判断する必要があります。市場の雰囲気に飲まれて冷静さを欠くと、思わず予算オーバーしてしまうこともありますし、逆に慎重になりすぎて仕入れが思うようにいかないこともあります。
しかし、こうした駆け引きの中で目当ての商品を適正価格、あるいは予想以上に安い価格で仕入れることができたときの喜びは、何ものにも代えがたいものです。
さらに、市場にはただ植物を仕入れるだけでなく、人と人とのつながりを築く場としての側面もあります。
競りを通じて、農家や生産者との信頼関係を築いたり、同業者との情報交換をしたりすることができるのも、市場の魅力の一つです。
実際、顔なじみの業者同士では、「この時期はこういう花が人気」「最近の市場価格の動向はこうだ」といったリアルな情報が飛び交い、ビジネスをする上で非常に役立ちます。
このように、園芸市場は単なる取引の場ではなく、仕入れのスリルや人とのつながりを楽しめる魅力的な空間です。
特に競りに参加することで、植物の価値を見極める力が養われるだけでなく、より良い仕入れができるようになり、市場の醍醐味を存分に味わうことができます。
こうした市場の魅力を知れば知るほど、私はこの世界から離れられなくなってしまうのです。
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